これまで数多くの耐病性品種の試作と導入を繰り返し、現在はその大半を耐病性品種が占めるようになりましたが、これに加え、消費地からは果実の棚持ちに優れる「硬玉タイプ」が求められるようになりました。「遠隔産地」という地理的条件と温暖化により、軟果玉への対応も迫られたのです。こうして、熟れるのに日数を要する「晩生タイプ」のTY耐病性品種がシェアを占めるようになりました。お客様がトマトを求めているのに出せない。最も単価が安定する時期に出荷できない…。そして、ようやく八代の出荷量がピークになる頃には、他産地のピークと重なり、単価が低迷するという悪巡回。需要と供給がマッチしない負の連鎖です。私たちは、品種選定において耐病性と棚持ちを重視しすぎたばかりに、本来の八代が持っていた「強みと責任」を自ら手放してしまっていたのです。そのことに気付いてからは、10・11月に収穫量の多い「早生タイプ」の模索が始まりました。面積制限付きの作付が許される「拡大試験品種」に昇格した翌年は、先の傾向がさらに顕著に表れ、JA全体で最初に出荷量のピークが来るのが「プリマドンナ」となり、10・11月の初期収量が穫れる農家が増えてきました。その頃には「プリマ」ってどんな品種なんだと聞いてくる生産者が増えて来ました。そのまた翌年、2022年定植の作付にて同品種は「正式採用」となりましたが、以降は管内で反収成績の高い生産者の多くが「プリマドンナ」を導入しているという状況となり、JA全体としても出荷量の安定化・平準化に繋がっています。中でも特に郡築園芸部の比較的若い農家がこの品種を選び始め、これまでの反収成績を大幅に更新していると同時に、高単価の時期に合わせて収穫ピークを持ってくる肥培管理を行い、高収益を上げています。加えて同品種は「多収だが、マンパワーの要る品種」だとも言えます。段数の回転スピードや熟期が早い品種ですので、脇芽取り・誘引などの手入れから肥培管理、収穫作業に至るまでの全ての作業ペースを先手先手でこなしていく必要があります。加えて、八代は農家一戸あたりの栽培面積も大きい(平均89アール)。これには、充分な労力確保が必要となります。こうした「プリマドンナ」の強みと弱みを十分に理解し、充分に対策を立てて頂ける農家さんにのみ、この品種を薦めるようにしています。■10〜11月の端境期にトマトを全国に届けるという「強みと責任」八代は全国の夏秋産地と冬春産地の端境期となる10〜11月の国内トマト需要を満たすという産地の「強みと責任」が以前よりあったのですが、12月になって収穫ピークが来る晩生品種の構成比率の高まりと共にその端境期の供給量を十分に満たすことが難しくなっていきました。結果として、全国消費地では10〜11月に多くのレストランのバイキングコーナーからトマトが姿を消してしまいました。■産地の「強み」を強化させるための早生品種の選定とプリマドンナとの出会いJAやつしろでは、トマト役員による品種試験のほか、熊本県野菜振興協会八代支部さんによる試験も毎年行われており、そこで得られる収量や秀品性や食味品質などの定量データを活用させて頂いております。「プリマドンナ」も品種名が付く以前の試作番号だった当時からこの野菜振興協会さんの試験に投入されていましたが、試験2年目となった2020年11月中旬時点での初期調査データにおいて、対照品種と比べて明らかに開花段数の進度が早く、収穫段数の回転が早いことが解り、早生性と果実肥大性による初期収量性の高さが認められました。同時期に試作中の複数のトマト役員からも、「早生で玉太りが良い」という声が上がり始めました。食味品質についても高い評価でした。■プリマドンナの「強みと弱み」に合わせた栽培の技術と対策そんな「プリマドンナ」ですが、我々はこの品種は「作り手を選ぶ難しい品種」であると考えています。八代では長期越冬作が中心であり、厳寒期にスタミナを維持するには高い栽培技術が要求されます。また、8月の定植時期から収穫がスタートするまでの初期は高温のため、裂果対策もとても重要となります。「プリマドンナ」は早生で大玉で多収なのは良いが、その分だけ草勢が失速してしまうのも早い品種とも言えます。生殖生長に傾けすぎることなく、栄養生長を常に維持する必要があります。また裂果にも比較的弱い品種です。■やつしろトマト産地の未来と展望常に時代と共にトマトの品種は変遷していきます。生産資材や先端技術やトレンドも更新され続けるでしょう。これらを積極的に研究し、活用していくと同時に、JAやつしろ指導員としては、産地の永続発展の基盤となる「骨太の栽培指針」を確立させることが我々の急務です。日本はすでに超高齢化社会となり、これから総人口が減少して行きますが、そのスピードよりも速く就農者人口は減少していくと思われます。国産農作物の需要に対し、その供給量は相対的に減っていくでしょう。しかしながら、八代ではこれまで頑張って来られた先輩方のひとかたならぬ努力のおかげで、毎年20代30代の若い後継者世代が続々と就農しています。農業にはそれだけの魅力があるのです。これからはさらに「農業の価値」は高くなって行きます。チャンスも広がって行きます。彼ら若い農家が20年後30年後にまた次の世代に農業をさらに魅力あるものに磨き上げ、バトンを渡して行けるよう、私たちは力を尽くして行きたいと思います。郡築園芸部トマト選果場の様子3
元のページ ../index.html#5