「プリマドンナ」を採用する以前、私のトマト栽培の課題は「冬場の栄養生長過多」でした。つまり、木が強いわりに果実が伸びて来ないのが悩みで、反収成績の「壁」をどうしても超えられませんでした。この壁を超えるには、いかに生殖生長に傾けるかが鍵であると解っていたのですが、従来品種ではどうしてもそのバランスをコントロールすることが出来ませんでした。そこで出会ったのが「プリマドンナ」でした。最初は見るからに収量が出そうだと感じ、試験導入をしました。栽培していくと、この品種特有の「反応の早さ」が見て取れました。果実を1段収穫し終えたら、その上の1段がすぐに肥大して来ます。玉が外れたら、芽先も一気に動いて行きます。本当に反応が早いんです。その代わり、着果負担が増えたら、花質も敏感に変わってきます。芯先の細り方も早い。こうした品種特性を理解すると「今までにない面白いトマト」であり、「作りがい」がありそうだと思いました。そして、これまでの品種とは真逆の「栄養生長重視」に栽培方針を切り替えました。着果負担が掛かると芽先も花質も変わるため、そのタイミングを見逃さないようにしました。花芽が弱い時は、温度を少し下げて管理することを意識しました。こうした環境に対するレスポンスが早いことも「プリマドンナ」の面白い点です。これは、販売単価の動私にとって「プリマドンナ」は作りやすいという印象です。以前栽培していた晩生タイプ品種と比べると、玉を外したら直ぐに草勢回復するのが最初の印象でした。作り込んでいくと、ダントツで回転が早いことや厳寒期の葉先枯れの少なさが分かります。それまでシーズンを通じての収穫ピークは2月だったのですが、今では12月にピークが前倒しされました。2年前までは、別の早生タイプ品種も栽培していましたが、「プリマドンナ」は果形の安定感が違いました。着果性が良くて玉が揃うことも利点です。私が思うこの品種の課題は「軟化」だと思っています。家でも自分で食べて食感を確認向に合わせて収量の山と谷を持って行くことも可能であることを意味します。冬場の草勢もなんとかコントロールすることが出来ました。春先の玉と葉のバランスがとても良くなりました。この品種なら、もっと上手く作ることが出来そうだ。手が掛かる品種だが、これを逆手に取ると、もっと穫れて、「未知のレベル」に挑むことが出来るのではないか?そう考えた私は、これまで6〜7名で行ってきたトマト作りを10名に増員し、品種の回転スピードに対応できる人員体制としました。収穫ペースなどの作業頻度を上げることで、余計な着果負担を避けるとともに、果実の軟化や裂果を避けることが主な狙いでした。この決断は、人件費の大幅増を意味しますので覚悟が要りましたが、実際にそれ以上の効果がありました。これまでの「反収の壁」は1割以上上回りました。特に単価の高い年内出荷量は以前の1.4〜1.5倍に増やすことが出来ています。今までにない「やってて面白いトマト」。それが「プリマドンナ」だと実感しています。ちなみに、低段の裂果対策として、1段目は摘果しません。プリマドンナはそれでも十分に肥大します。味?もちろん好評ですよ。特にうちの両親が「美味しい」と喜んでくれています。しています。特に温暖な豊作時には収穫ペースを落とず、過熟にならないことが大事です。これは「裂果」対策にも繋がります。10〜11月は毎日収穫を欠かさず行っています。結果的に「プリマドンナ」にスイッチしてからは、以前の反収成績の12〜17%増となっています。以前よりも平均単価が高い時期に出荷出来ていることも収益的には大きいです。一緒に仕事している家族や実習生たちも栽培しやすくて多収になったので、昔よりもトマト作りが楽しくて幸せそうです。これが一番嬉しいですね。お盆の記録的な大雨で定植前後のほとんどの苗と圃場が冠水!それでも農家は立ち上がる!みんなが八代のトマトを待っている!被害を受けられたトマト農家の皆さん、がんばって下さい。心より応援させて頂きます。■上原大輔さん(中央)■河野秀幸さん4 2025年8月11日、熊本県を襲った記録的大雨災害は、八代周辺にも大きな被害をもたらしました。八代市内では全農地の9割に当たる約6千ヘクタールが冠水。この時期は、多くのトマト農家さんが定植を始める段階。ハウスには定植を待つ大量の苗が所狭しと並べられている正にそんな最悪のタイミングで、線状降水帯が襲い、苗やハウスや機械が冠水被害を受けたのです。八代市だけでも、合計193万本以上のトマト・ミニトマトの苗が冠水で流失したり、枯れたと言われています。大雨の翌日からは一転しての晴天猛暑日。多くの農家さんは、比較的ダメージの少ない苗をハウス内に並べ、殺菌消毒し、その後は扇風機や循環扇をフル稼働させ、苗を乾かして養生。それでも病気と根痛みで倒れる苗が次々と発生。また同時に、ハウス本圃の畝を乾かしたり、崩れた畝を再び耕起する作業に追われました。こうした必死の復旧作業の末、当初予定されていた面積の大半はなんとか定植を終えることが出来たとのことです。JAやつしろ様では、全体平均して1週間ほどの定植遅れとなり、苗の本数が足りない分は「2本仕立て苗」となったため、収穫開始時期の遅れは予想されています。また、病気や根張り不足などの懸念は残っています。しかしながら、八代のトマト農家さん達はそんな絶望的な状況から、諦めることなく、力強く復旧に向け、尽力して来られています。■今までにない「やってて面白いトマト」。それが、プリマドンナ。 JAやつしろ郡築園芸部 上原大輔さん上原大輔さんは、郡築園芸部の三役として会計担当を務めながら、部会内でもトップレベルの収量成績を毎年あげておられる農家さんです。「プリマドンナ」の導入は3年前から。部会内でも早めに全面導入に踏み切られました。現在は109アールでトマト栽培を行い、ご夫婦と息子さんに加え、パートさんと技能実習生さんとで合計10名でトマト作りをしておられます。次年度からは、面積も160アールに拡大予定とのことです。■プリマドンナに変えたら、家族も実習生も「トマト作りが楽しい」に。 JAやつしろ郡築園芸部 河野秀幸さん河野秀幸さんは、郡築園芸部の生産部長を務める部会の若手幹部メンバー。22歳で就農し、47歳にしてトマト作りは25年目というベテラン職人です。7年前までは春メロン栽培もしておられましたが、以降はトマト長期栽培にシフト。実習生含め7名の人員で120アールの面積でトマトを生産。「プリマドンナ」は2年前に部分導入し、昨年からは全面導入されています。■JAやつしろ藤本指導員のコメント8/11未明より降り続けた雨は線状降水帯の発生と満潮が重なり、定植を控えた育苗ハウスの苗や準備を済ませた本田ハウスに大きな被害をもたらしました。この被害は甚大で定植用の全ての苗を失った生産者が発生するなど、被災直後は今後の見通しが付かないほどの絶望感を産地にもたらし、一時は大幅な栽培面積の縮小が懸念されました。しかし、ここで日本一の産地である八代の強みが発揮されることになりました。JA熊本経済連や種苗メーカー含めた全ての八代産トマトに携わる関係者の皆様のお力で救急的な苗の手配が実施されたこと、生産者自ら一つの苗から側枝を二つ伸ばす二本仕立てに変更するなどの努力をよって、最悪の事態である面積の減少に歯止めをかけることが出来ました。これからは、全国の消費地に八代産トマトが出回ります。生産者の努力と関係各位の皆様のお力で災害を乗り越えた八代産トマトへの消費地でのご哀願をお願い致します。
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